連休のご予定は?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



まだ時折、
冷たい雨になったり、風が強かったりもして。
どんなにいいお天気だと予報士のお兄さんが言ったとて、
それこそお守りのように上着が手放せない微妙な頃合い。

 「でもね、そんな言ってる端から、
  汗ばむほどの陽気にもなるから困りもので。」

 「そうそう。」

どれほど薄いものでも、脱いで手へ持つとなると、
そこは“手荷物”になっちゃうから面倒よねと。
活動的なお嬢さんたちが
“あ〜あ”なんて、一応は憂えていたけれど。

  ―― 来たる連休が やっぱり楽しみなのには違いなくって

学校が嫌いなんじゃないのよ?
でもでも、教室でじっと座っていて、
退屈な授業を受けなきゃなんないのは ちょっとね、と。
まだちょっと幼い、されど発色が鮮やかで目映いほどの、
萌え初めの緑も入り混じってのこと。
強さの増しつつある初夏の陽の下、
爽やかな風に掻き回されて躍る柔軟な枝と、
まだまたやわかい葉の陰の織り成すモザイクもキラキラの、
そんなお外を闊歩するのって、やっぱ楽しいに違いないし。

 “つっといて、
  紫外線が当たると陽焼けするとか、
  汗かくとメイクが落ちるとか
  風が強いとセットが崩れるだのだのと。
  何だかだ言っちゃあ、
  せいぜいファッションビルん中とか地下街とかしか
  出歩かねぇクチも多いがな。”

緑地公園まで出てフィトンチッドを吸いましょうとか、
箱根は強羅までのハイキングだとか、
そこまでの級のお出掛けともなると、
熟年にまでならにゃあ腰上げねぇから不思議だよなぁ。

 “一頃 流行った“森ガール”や“山ガール”は何処へやらだよな。”

それとも、あれって
大昔にいたという陸サーファーみたいな
“なんちゃって”が大半だったのかなぁ?なんて、
今時の若いのにしちゃあ穿ったことを思いつつ、
近所迷惑にならぬよう、少し先の通りでエンジン切った愛車を押しながら、
ぼんやりとそんな辺りを取り留めなく考えていたのは誰あろう、

 「…弓野。」
 「ああ? おう久蔵か。」

限定解除クラスの大型バイクを、されど余裕でゴロゴロと押して、
相当な距離のゆるやかな坂を 上って来た坊ちゃんは。
ド派手なピンクの長髪に
サイケな柄のインナーシャツを
ライダーズジャケットの胸元から覗かせておいでの、
見るからにそっち系、族のお兄さんっぽい青年で。

 だがだが実は、

ここ、M区のお屋敷町にお住まいなのに相応しいとされる、
某貿易商社の主家筋の一応は名家の御曹司というから、
イマドキの上流世界ってよく判らない。(こらこら)
たった今、黒塗りの高い高い柵越しに声を掛けてきた、
そちら様もまたビスクドールのような風貌の、
三木家自慢のご令嬢と同じくらい、
やや砕けた装いをしておいでなので。
ここという土地柄での
ご近所さん同士の挨拶には到底見えない取り合わせかも。

  ちなみに、三木さんチの令嬢の方は…といえば。

今まさに天穹から降りそそいでいる瑞々しい光を凝結させたかのような、
裾へと向けて甘いくせのある質感も そりゃあ軽やかな金の髪に、
どっから引っ張り出したのか、
随分と洗いざらした紺地の手ぬぐいを
どっかの海賊のようにバンダナ代わりにして巻いており。
襟ぐりも袖口も相当くたびれての原型の線を見いだせないほどよれまくった、
サイズもずんと大きい濃色の七分袖トレーナーをざっくりと着込み、
ボトムはボトムで、
ファッションで最初からついてたそれとは思えぬダメージが
膝と言わず腿と言わず、あちこちへ入りまくりの、
そちらもやはり年季の入った正青のデニムのストートパンツを、
サスペンダーで肩から吊って履いておいで。
丈が短めの裾から覗く足元も、
草の汁で緑色の染みだらけというデッキシューズタイプのコンバースと来て、
それらの狭間から…輝かんばかりの色白でか細い足首が見えているのが、
途轍もなく違和感丸出しなのだが、
やはりご当人はてんで意に介していらっしゃらなくて。

 「その勇ましいカッコということは、くうの風呂か。」
 「……。(頷)」

天気が良いので庭で…という構えでいらっさるようで。
だがだが、こくりと頷いた
今日はまたずんとワイルドないで立ちのお嬢様が、
双腕へ抱えておいでだったのは、

 「でも、それって、キングじゃね?」

三角で中折れのお耳や頭と背中、お尻尾などは
濃褐色と茶の指し色が愛らしい、そりゃあふさふさした毛並みで。
だがだが、胸元や腹、そして四肢の先は純白の、
はふはふという鼻息も荒い、腕白そうなシェットランドシープドッグさんが、
もがくほどじゃあないけれど、じっとしてんのイヤイヤとばかり、
お嬢様の細腕の中に上半身を抱えられ、時々 ばたたと暴れかかっていらっしゃり。

 「親戚から預かってるとは聞いたが、
  もしかして お前が世話してんのか?」
 「……。(頷)」
 「うあ、そりゃまた贅沢な話だよなぁ。」

目の前に遊んでくれる人がもう一人現れたとあって、
そこも刺激になったのか。
小さめのコリー、シェルティくん、
ワフッと一声吠えながら、
足元のバネを生かしてぴょいっと久蔵さんの腕から飛び出すと、
間近だった柵へ前脚を引っかける格好で後足立ちになり、
構って構ってとはしゃぐ始末。
見るからにお調子者らしきシェルティくんの頭を
わしわしと撫でてやった、バイク乗りのお坊っちゃまとしましては。

 “まあ、俺は“贅沢だ”とは思わんクチだが。”

M区の顔とまで言われておいでのホテルJに代表される、
興業系新興財閥・三木コンツェルンの跡取り娘で、
生粋にして生え抜きの、聖なるヲトメばかりが通う女学園に籍を置き、
玲瓏透徹、沈着冷静、
知的で鋭利で、冴々とした眼差しが魅力の、
世間から“気品あふれるご令嬢”だの“バレエ界の新星”だの、
そりゃあ神々しい存在のように、受け取られ、扱われているこのお嬢さんが。

  だがだが実は。

休みの日には 庭の芝生の上へじかに座り込み、
屋敷にいる動物全部を片っ端から洗ってやったり、
お気に入りのブランケットにくるまって、
陽が強くなって汗ばんで起こされるまでを午睡で堪能しているような。
ちょいと大雑把で野放図で、
しかもしかも、そんなところを からかおうものならば、
問答無用で破壊力のある蹴りが飛んで来るほど、
喧嘩の腕っ節も凄まじく強い女傑だってところを
先に知っているもんだから。

 「そうそう。
  そういやお前、例の五月祭で またぞろ主役張るんだって?」

黒みの強い潤んだお眸々で“遊ぼ遊ぼvv”とじゃれつく坊やをいなしつつ、
お嬢様へは…容赦なく痛いところを突くよな訊きようをしたりして。
途端に、

 「〜〜〜〜。」

運動神経はずば抜けていても、
こういうことへの反射神経はややトロかったはずが。
さすがに若さと瑞々しさじゃあ一番の女子高生、
日々のお喋りなどなどで鍛えられたものか、
あっと言う間にむむうと眉根を寄せてしまう久蔵さんで。
日頃、あんまり表情豊かとは言えない彼女が、
随分と判りやすくも“不機嫌です”というお顔になったほどのネタ、

 「あ"? 何で知ってるか?
  俺だってわざわざ調べてねぇが、
  巷じゃ憧れの女学園の話題だかんな。
  しかも、俺ゃあ お前と近所付き合いがあると思われてっからよ。」

わざわざ耳に入れてくれるお節介もいるのさと、
あくまでもそんな言い方に留めた弓野くんだったが、

 “どっちかってぇと、聞きほじられるのが鬱陶しいほどなんだがな。”

あの麗しのプリマドンナが、紅ばら様が、
お前なんぞのご近所さんで幼なじみだとぉ?と。
羨ましいのか妬ましいのか、
ちらっとでも情報が得られぬか、
あわよくば紹介してくれねぇか この野郎とか。
思っているのがありありの、何とも困ったミーハー連中が。
話の振りにと 向こうからそういうネタを持って来るので、
知りたくもないことにまで通じている弓野くんであるらしく。

 「〜〜〜。」

そして、その話題、
当のご本人様にはあんまり楽しいネタじゃあなさそうだ、というところまで、
実は察しがついてた辺りも、付き合いの長さの為せる技。

 「女王様にしても陪臣役にしても、
  ホントは一人一度しか務められないって言ってたろうによ。」

 「〜〜〜。」

 「何だ何だ? ああ、あの一子ちゃんな。
  今年の女王は あの子なんだ。
  だったら尚のこと、
  陪臣役は前にやりましたからって断っても。」

 「………。」

 「ははあ、
  そういや いっちゃんって大人しい子だしな。
  それにあんまり丈夫じゃないって言ってなかったか?」

ふ〜ん、そかそかと。
もしかして白百合さんとか兵庫さんと張り合えるほどに、
紅ばらさんとの意志の疎通が適っておいでの幼なじみさん。
そんなせいもあるものか、
自分の身に降りかかったことを、あんまり人へは相談しない久蔵さんが、
無愛想な態度はそうそう変えないながらも、思うところを伝えようとするし、

 「みゃっ!」
 「おおう。」

そうこうしているところへ、がささっと傍らの茂みが大きく揺れて。
ピンクに染めた派手頭のお兄さんへ、
お手々を預けたまんまのシェルティくんのお背を足場に、
とんっと飛び出して来たキャラメル色の毛むくじゃらの物体が、
そのまま紅ばらの君、ただし今は戦闘態勢なお嬢様の
トレーナーの懐ろへと一気に飛び込んでおいで。
四肢を踏ん張り、爪を立ててまでして、しがみついてるお相手はといや、

 「くう。」
 「おや。このごろは自主的なのか?」

 前は風呂は苦手で、結構大暴れしてただろに。
 そいでお前も そういうカッコをするようになったんじゃあ?
 え? 俺やキングに独占されてると思ったらしい?
 そういや、毛並みが逆立っとるが…。

 「お前、くうのママなのか?」
 「〜〜〜っ

わ、判った判った、ペットシャンプーのスクイージ砲撃はやめれ。
そんなしたら大量に減るぞ、
それって特注の眸に染みない無香料だろが減っても良いのか…と。
何とか言い聞かせてしまうところも手際のいい、
本人たちは大否定しそうだが、実は仲が良い幼なじみ同士のお二人が
さっきまでの話題に上らせていたのは どういうことかというと……。





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  *いやまあ、本筋自体は大したネタじゃあないんですが。
   季節柄のお話とその周辺ということで。
   そして、もーりんも実は意外と気に入っている
   弓野さんチの跡取り息子、
   名前を決めてなかったなぁと今になって気がつきました。
   どうだろう、あった方が良いでしょうかね。
   でも、久蔵さんは
   シチさんと兵庫さん以外のお人は
   ほぼ全部 苗字で呼んでますから、要らないかなぁ。


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